【くちコミ情報】 人口過密の恐ろしさ
現代人の心が頽廃していることは確かだが、その原因はあまり追究されていないように思える。本書では、動物学者の立場から、その原因を明らかにしている。 まずは人口過剰である。人口過剰は本能を狂わせ、人を攻撃的にする。そして資本主義によって、人は常に生存競争を強いられている。競争に勝たなければ負け組でクズだ、しかし勝てるのはほんの少数だ、というわけである。よって過密都市では人は人に対して無関心で冷たくなる。人類社会に警鐘を鳴らしている一冊である。 どうなんだろう?
本書は、動物行動学を立ち上げた立役者ローレンツによる現代文明への警鐘の書である。1970年にフランスで『攻撃―悪の自然誌』を出版する際『レクスプレス』誌へのインタヴューに応えている「ローレンツは語る」に、既にその警鐘の骨子は現れており、本書にもその翻訳が巻末に付いている。 p 内容は、書籍の題目と章立てを見れば歴然だろう。本書が出版された1973年以前の欧米を念頭に置き、ホメオスタシスを説明のモデルとしながら、平衡の失調した「人口過剰」は外的な「生活空間の荒廃」や「人間どうしの競争」を招き、その結果「感性の衰減」どころか「遺伝的な頽廃」まで招き、おそらくはそれが「伝統の破壊」や「教化されやすさ」にも結びき「核兵器」問題も生じている、というもので、この8つを「大罪」としている。 私が見るに本書を貫いているのは2つの認識であり、一つは、人間も生物である以上、本能はいかんともしがたい、という認識と、それゆえ、タブラ・ラサで生まれてくる人間は条件づけしだいでいかなるものにもなる、という行動主義的説明は、「えせ民主主義の教義」に過ぎない、という認識である。それゆえ、当人達にもいわく説明しがたい人間の本能を、動物行動学を下敷きにして認識することで、この危機を避けようという主張となる。 p 訳者あとがきにも苦労が述べられているように、翻訳は余り読み易くはなかった。内容的には、「文明化した人間」と言っても、人類史上の全文明を主な念頭に置いている訳ではなく、各「大罪」に割いている頁数が異なることも注意してよかろう(例えば8章には24頁割いているが、9章には2頁のみで、当時はスキャンダラスなことだったろう)。幾つか示唆的な洞察もあったが、なにせ依拠しているデータが古いので、1995年に再版したのであれば、その後の研究から見た本書の位置の解説を付した方が良かったのではないかと思った。 現代人に対する警句
ローレンツのほかの著作とかなり内容が重複するので、星3つ。 p 印象に残った箇所: p 今日の人間の心にもっとも大きな障害を与えているものとして、ローレンツは「欲望」よりもむしろ「不安」を指摘している。「現代人がむやみと喧騒を求めるのは、彼らが普通は神経衰弱であることとはまったく逆説的であるけれども、その説明としては、激し音で何かを打ち消してしまわねばならないのだとしかいいようがない。」その何かが不安なのだろう。
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